途中大きな空白がありますが、ストレートに記載することはできない内容になっております為、ひと手間かけて読んでください。
手間の掛け方が分からないかたは・・・・・・読めないね〜
でも簡単です。
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お母様二人が一旦部屋に帰るといったので、イザベラとフランソワーズは彼女らの部屋にお邪魔することにした。向かいの部屋に外人がいると言っていたから一度見ておかないと。
四階へ行き、客室フロアに入る。
そこは紛れもなく選手フロアのひとつだ。
吹き抜けを挟み、お母様方の部屋は右通路側。そこを地上のプールを見降ろし、リゾート気分に浸りながら奥へと進む。
向かい側の並びを見るとひと部屋置きに開いている扉が三つ四つある。通りすがりにチラと除く。
熱心にパソコンに向かっている外人。あの横顔はマートン。
次の部屋の主も横向きに座って指をこまめに動かしている。あの細身の腕でゲームのコントローラーを操っているのはフォッサム。
最後の部屋。彼は奥のソファーに座り、堂々とこちらを向いている。その大男振りは一目見て分かる。メッセジャーだ。
「Ｈｉ！ タダイマ〜。」
陽気に手を振るお母様方にイザベラとフランソワーズは目を丸くした。
それもそのはず。彼は何のためらいもなく、友を出迎えるように手を振ったのだから。そして更に彼女らはその真正面の扉に鍵を刺し込んだ。
本当に彼女らの部屋はメッセンジャー選手の前だった。
向かい同士の扉が真正面に設計されたこのホテルの部屋は、こちら側の部屋の奥とあちら側の部屋の奥を一直線で結ぶことができるようになっている。故に当然両者が扉を開け放していると、互いに丸見えだ。
そんな部屋で一時間ほどまったりしたが、その間も気が気ではなかった。
あまり騒いでは迷惑になると小声でしゃべったり、わざわざエレベーターホール横のトイレに行っては外人の部屋をチラ見して帰ったり。
マートン選手は相変わらずヘッドフォンをしてパソコンと睨めっこ。
フォッサム選手の部屋には二人いる。メッセンジャー選手がお邪魔して一緒にゲームをしていた。扉付近の全身鏡に写った。プロジェクターを持ち込んでの大画面が。フォッサム選手は相当なゲーム好きだ。
それでも彼らは外を通りすがった彼女らが視界に入ると陽気に手を振り、慌ててコントローラーを持ちなおす姿は可愛らしかった。
午後五時頃になると、部屋の外に動きがあった。
外人とその通訳の人たちが廊下でウロウロしている。
カワムラのお母様が廊下のメッセンジャー選手を見つけ、部屋から何かを持ち出してきた。彼女ご持参の資生堂パーラーのチョコレートだった。
「皆様で召し上がってください、と伝えてください。」
プレゼントはメッセンジャー選手に手渡し、通訳の人に言った。
通訳の人が彼女らファンを排除する気配はなかった。危険人物ではないと判断したのだろう。プレゼントを貰った彼もさぞ嬉しそうだ。
部屋の前から向こうのエレベーターホール側をみると、人だかりができていた。
明日からのキャンプに向けた直前ミーティングがもうそろそろ行われる。その部屋に入るであろう全員の選手を目当てに、ファンやマスコミが集まっ て来ているのだ。そうだと分かると彼女ら四人はそこへ向かう。
彼女らは少々の優越感を覚えた。
エレベーターホールと選手フロアの間にあるガラス扉。そこからミーティングが行われるすぐ前の部屋までを人々が壁となり、道を作っている。大勢のファンやマスコミはそこからは入ってはいけない領域だと認識し、扉のあちら側に群がっているのだ。しかし彼女らがいるのはこちら側。入ったのではなくもともとの居場所。選手が通ると彼女らの方向に白いライトが照らされ、カメラを向けられる。その光景は全員が彼女らに注目しているように見えた。
優越感の中にも恥ずかしさがあった彼女らは、今更群衆に分け入ることもできず、なるべく邪魔にならないこちら側の扉際に場所取りをした。
次々と選手が人々の目の前を通り過ぎ、ミーティングルームに吸い込まれて行く。まだキャンプは始まってもいないのに、ほとんどの選手がお疲れ気味の様子だった。
エレベーターの方から群衆を掻き分けてそこに辿り着く選手もいた。皆そちらにはお尻を向けているわけだから前に出て来るまで誰も気づかない。新井だ城島だと気付いてからやっと騒ぎだす。その頃にはもう彼らはその中に入っていて手も足も出ない。
そのうちの一人に金本選手がいた。
しかし彼は……。
群衆を掻き分け姿を現すと、ミーティングルームには入らず扉のこちら側に向かって歩いて来た。
彼一人皆と違う行動をした事に、人々の頭には「？」マークが浮いていたがすぐに分かった。
彼自身の部屋であろう所に入ったからだ。
彼はただ単に部屋に忘れ物を取りに行っただけで、すぐに戻って来てミーティングルームに入った。
しかしこの行動、彼女ら四人にとってはただ単なる事ではなかった。
四人はお母様二人の部屋の辺りに入って行く彼を見たからだ。
はっきりとは分からなかったが、もしかしたら金本選手の部屋はお母様の部屋の隣ではないだろうか。
全選手がミーティングルームに集合しマスコミもファンも散り散りになった頃、彼女らはそんな事を考えて期待に胸を膨らませ、心躍らせながらその部屋に帰って行く。
フランソワーズがベランダから身を乗り出していた。
「カバン置いてあってピンクで『６』って書いてある！」
隣が金本選手の部屋だということが確定し、部屋の中にいた三人も驚いた。
「ドア開いてるし、テレビも点けっぱなしや。」
彼女が身を乗り出していたのは隣の部屋を覗く為だった。
イザベラも駆け寄り同じように身を乗り出した。
「ほんまや『６』や！ カーテンもドアも開いてるしテレビ点けっぱなしやし……用心悪いなぁ。テレビくらい消しといたろ。」
一旦部屋に戻り取って来たのはテレビのリモコン。この距離で同じテレビなら消えるだろう。
「兄貴帰ってきたらびっくりするからやめときぃ。」
お母様が言うが、少しずつ角度を変えながら一生懸命リモコンの電源ボタンを押すイザベラ。
しかしテレビは消えなかった。
「あかんわ、ホテル違うから機種も違うんやわぁ。」
兄貴の部屋はムーンビーチ。彼女らがいる部屋はムーンビーチパレス。ここのホテルはムーンビーチとムーンビーチパレスの部屋が入り混じっている。従業員に聞くと内装が違うということでお母様方の部屋には畳の間はなくキッチンがあるが、まさかテレビの機種まで違うとは。
イザベラは諦めて部屋の中に戻った。
四人は他愛もない妄想繰り広げ大会を始めた。
「兄貴が隣に寝るのね！」
「ホテルの部屋ってだいたい対称的に作られてますよね？ じゃあ寝るとき頭合わせじゃないですか！」
「ぃやぁー！ どうしましょ！」
恥ずかしがるカワムラのお母様に追い打ちを掛ける。
「あ！ シャワーも向かい合わせですよ！」
「肩揉みましょうかとか、お背中流しましょうかとか言いたいわね。」
フクモトのお母様は冷静に妄想する。
ミーティングしているうちに侵入して、三つ指着いて出迎える。
外食ばかりだと体に悪いからと、手料理を振る舞う。
などなど。
彼女らの妄想話は尽きない。
ケロ・呂軍曹が仲間に加わったのは午後七時を回っていた。
彼の勝負服はいつもどこかにカエルがいる。携帯電話にも棲んでいる。
カワムラのお母様が彼を彼女の部屋まで導き、そこで作戦会議が開かれた。
ここは既に秘密基地と化していた。
基地で彼女ら四人から一部始終を聞かされた呂軍曹は、ただただ驚いていた。到着したばかりでまだ残っていた疲れも吹っ飛ぶほどの驚きだ。
まず隣を確かめようとフランソワーズと同じ事をしてみたが、残念。カーテンが閉まっていた。電気も点いていない。
他の選手もほとんど外出中だろうと、五人も夕食にすることとした。
皆ほんのりと桜色に色付き秘密基地に帰って来た。呂軍曹だけはまだ飲み足りないと、コンビニで仕入れた缶ビールを大量に手に提げている。
メッセンジャー選手も帰っていた。
呂軍曹がビールを掲げて何か話しかけた。彼の流暢な英語はメッセンジャー選手をよりフレンドリーにさせ、話しながら部屋から出て来た。
「Let’s have a party tonight ??」
ついさっきイザベラとフランソワーズにプチ英会話講座を開いていた時の流行語大賞だ。
「残念だけど明日からキャンプ初日だからやめておくよ。」
もちろんnative Englishだ。
「そうか、まじめなんだな。また今度誘うよ。」
「あぁ、楽しみにしているよ。」
五人とも残念そうに部屋へ入る前にフランソワーズは、今がチャンスだと四人に背中を押されメッセンジャー選手に駆け寄る。そしてプレゼントのような沖縄土産のような、プレゼントを手渡す。
呂軍曹さんが来る前にホテルのお土産屋さんで仕入れておいたキットカット紅芋味だった。その他にも野原選手用に龍神マブヤーのシークワーサー飴、イザベラもマートン用にブルーシールのマンゴープリンを仕入れていた。彼女らが呂軍曹にプチ英会話講座を開いて貰っていたのは、それに添えるメッセージの為でもあった。
メッセンジャーは喜び、ハグでお礼をした。
彼女は脳みそをフル回転させる。
「一人で日本に来て寂しくない？」
「通訳の彼が毎朝起こしてくれるから大丈夫さ。」
「あのお母様二人が、その通訳さんのファンだと言ってたの。」
「ハハハ、彼にそう伝えておくよ。」
英文科卒のフランソワーズは必至に英語で、結局十分くらい話した。
四人のいる部屋に戻って来た彼女の顔は喜びと疲れと驚きと、複雑だった。
作戦会議は始まっていた。
途中呂軍曹がエレベーターの方のトイレへ行くと外に出た。
まだメッセンジャーはあのまま廊下にいた。手すりにもたれ掛け。
「何してるんだ？」
「ん〜、物思いにふけってるんだ。」
「早よ寝えや。明日に響くで。」
「うん、分かった。そうするよ。」
会議は一時間くらいでお開きにすることになったが、隣の住人の帰りが気になるのでまた身支度後に集まろうと決めた。
それぞれ各自の部屋に帰ろうと外に出る。
彼はもういなかった。
どうやら素直に寝たようだ。
「岩田さん……コレはないっスよ。」
小柄な男がぽっちゃり男の腹の肉を摘まんだ。
「痛、痛いって。 やめろよ大和！」
「ちょっと太りすぎちゃう〜？」
「体質や。しゃあないやろ。太りやすい体質やねん。」
「それを必死でシェイプアップするんじゃないスか。プロなんやし。」
「簡単にできたら苦労せんわ。」
大浴場の脱衣所でタオル一枚でじゃれ合う二人のところへ下民が一人やってきた。
「あのぉ〜岩田選手、サインください。」
岩田選手は嫌そうな顔をするも、無言で引き受ける。
ぽっちゃりしてきた体を見た下民への口止め料だったのかもしれない。
深夜十二時頃、また基地に集合したが結局隣人の帰りに会うことはできなかった。
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