ほんとにミドリガメで
シーズン始まってまいそうです。
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片岡さんたちはもうとっくに着いてるんやろうなぁなどと話しながら、選手の宿舎であるホテルにチェックインする彼女たち。
時刻はもう午後七時。
とりあえず晩ご飯を食べに行こうか。明日は宴会だ。今日はリーズナブルにしよう。と、ホテル近くの「食堂ピザ」という沖縄料理の食堂を選んだ。
食堂前まで来た時、フランソワーズが小さく「あっ」と叫んだ。前から選手らしき人影が二つ。片方は「鳥谷!」とこれも小声で叫ぶイザベラ。
彼は慌ててボールとマッキーを取り出そうと鞄に入れた彼女の手を、やめろと言わんばかりにキッと睨みつけた。
二人はもうどうすることもできなかった。やはり奴は手強い。
夜の出待ちに備えて米系を食べることにした。
島豆腐のマーボー丼。
500円。
さっきのことを少し悔みながら、自分達が意外と妄想……いや、想像力が豊かだということがテレビを観ていて分かった。丼がピリカラだ。
「イザベラさんどこやろ~。食堂ってどこ~?」
ホテル前の派出所辺りで二人の女性がウロウロしていた。
「あっ、あれは?」
「いや、髪の毛の長さが違う。」
しかし恐る恐るその店に入ってみる。
「あ! フクモトのお母様!」
イザベラはここにいた。
フランソワーズにとっては2人とも初対面。イザベラはもう1人のお母様とは初対面。それぞれ自己紹介をし、フクモトのお母様、カワムラのお母様の2人が仲間に加わった。2人とも楽しいお母様だ。
「私たちのお部屋の前が外国人選手なの!」
カワムラのお母様が嬉しそうに言う。
「そうそう、私たちホテル来て早々におばちゃんしたのよ! いやぁ~って手ぇ振って!」
フクモトのお母様も嬉しそうに言う。
どうやら名前は分からないが外国人選手らしき人が向かいの部屋に泊っているらしい。普通の外国人宿泊客もいる。イザベラとフランソワーズは半ば疑わしげに話を聞いていた。本当ならば凄く羨ましい。
先に食べ終わったイザベラとフランソワーズは先に食堂を出た。ホテルの前ではやはりもう10人近くの人々が選手の帰りを待っている。眼鏡の下民男性Aに少し話を聞く。今は外人選手らが外食中だそうだ。場所はおそらくステーキハウスJam。
よし、それを待とう。
夜は心持ち肌寒いがさすが南国、薄い長袖を羽織ればそれで十分。生暖かい風は少し潮気を含んでいる。そいつがイザベラの乱れた髪をべたつかせる。
昨年よりイザベラは落ち着いていた。すれ違う選手全員から貰おうなんて思わなくなったのだろう。更に昨年と違うのは、彼女が仲間を引っ張っていくということ。昨年までは師匠の腰巾着だった彼女だが、今年仲間になった3人は皆初キャンプの面々。選手にサインを貰えた時の嬉しさを味わって貰いたい。忍耐という厳しさの向こうにそれがある。忍耐の中にも余裕は必要だ。イザベラが師匠から教わったことだった。
前から大きな人影が四つとそのお供らしき人影が来た。
二の腕が女性の顔ほどもあるクレイグ・ブラゼルと、新外国人3人。
2メートル近くある巨漢、ランディ・メッセンジャー。
バネが効きそうなしなやかな肢体、ケーシー・フォッサム。
赤毛のジェントルマン、マット・マートン。
イザベラはフランソワーズの姿を確認し、ついて来るように言う。お母様2人にも……いない。さっき帰って来たと思ったのに、今ここに姿はない。探しに行く時間は……ない。
まず下民たちが群がるのを待つ。そしてサインや写真撮影に快諾してくれるのを確認してからダッシュする。
彼らは快く引き受けてくれた。ただ1人を除いて。
フォッサム。
しかしそれは「嫌だ」という意味ではなかった。彼はコンビニで仕入れた荷物を大量に両手に提げていた。皆の荷物持ちをさせられているのだろうか。若しくは自ら買って出たのか。だとしたら凄く良いヤツだ。彼は立ち止ることなく足早に去ってしまった。イザベラはその後ろに来たブラゼルにサインを貰う。フランソワーズはメッセンジャーへ。マートンも下民たちによって足止めを食らっていた。
イザベラは3人からサインを貰った。フランソワーズは2人から。もうサインだけだろうと写真は諦めていた。しかし日本慣れしたブラゼルは先に帰ってしまったが、他2人の新外国人はサービス精神旺盛に撮影会を始めていた。こんな待遇を受けるのは、母国より遠く離れたこの極東の島国が初めてだったのだろう。
食べかけのアイスを地面に置いてまで写真に応じているのはマートンだった。スラックスにインしたブルーのカッターシャツが何ともジェントル風だ。
メッセンジャーはとにかくデカい。手を伸ばしても頭まで届かないだろう。その異様にフサフサな黒髪を触ることは不可能だ。
皆笑顔で去って行った。皆嬉々とする。
初日から大収穫だ。
しばらくしてお母様方が戻ってきた。お土産物を見ていたらしい。なんと呑気な人たちだろう。少し残念がってまたお土産を見に行った。
また情報が入った。
今、久保選手と片岡さんがお風呂に入っている。
よし、風呂上がりを狙おう。
2人はお風呂場へ向かう。その途中にあるお土産屋さんを覗き、お母様方を連れ。
久保選手が出てきたが、無理だった。子供でも断っていたからあまりしつこく食い下がることは選手にとって迷惑なだけだ。
後は片岡さんが出てくるのを待とう。片岡さんならきっと皆に応じてくれるはずだ。
来た。片岡さんの湯上り。
やはり彼は優しいおじ様、10人ほどいたが快諾してくれた。
イザベルとフランソワーズは、サインは貰っていたので写真だけ撮らせてもらう。彼は二人の事を覚えていた。お母様方も各々サインを貰う。写真も。 サインはフクモトのお母様はトラッキーの自由帳へ、カワムラのお母様はスケッチブックへ。二人とも一ページ目に相応しいお方だと喜んでいた。
お目当ての方から頂くものは頂いて、またホテルの前で待つ。
お母様方はまたお店へと吸い込まれて行った。心底お土産屋さんを慕って止まないらしい。確かに紅芋タルトの試食はありがたい。食後でもつい手が出てしまう。
玄関へとタクシーが向かった。
ホテルの正面玄関は一階。今待っている場所は地下一階に当たる入口。
外からは回れるが、一階分の坂を駆け上がらないといけない。その距離おおよそ50メートル。
それを追うイザベラ。
玄関にタクシーが止まる。
誰が降りてくるのか……。
緊張する。
が、しかし。
一般人のおじさん方であった。
彼らには妙な目で見られたであろう。そんなことを気にしていてはこんなことやってはいられない。
また先ほどの場所へと坂を下り、めげずに待つ。
お風呂上がりの選手を追って建物内から回り、階段で先回りしたりもする。
忍耐と体力がなくては続かない。
また誰か歩いてきた。
三人。
あれは選手だろう。
上園選手と……。
……?
下民たちが凝視するも誰も動かない。イザベラとフランソワーズも顔を見合し「上園ちゃうん?」と言いつつ、見過ごす。
そうこうしているうちに三人は正面玄関への坂を上り始める。
すると一人の下民男性が走って追いかけた。それに釣られて二人も走る。他の下民たちは来ない。
下民男性が一人の選手を呼びとめた。
二人も誰か分からずサインしてもらう。
選手が正面玄関奥の裏口へ消えた後、下民男性に今のは誰かと問う。
「蕭。蕭一傑やで。」
蕭? 彼、背番号17やったっけ? と二人で考えていると、眼鏡の下民男性Aが「誰? 見せて~」とやって来た。
下民男性が蕭一傑だと言っていたことを伝えると、完全否定した。
「一七番って杉山やん。去年とサイン変わってるし! もらっときゃ良かったぁ。」
あ、確かに17番は杉山だ。
しかしえらい風貌が変わってしまったものだ。以前はあんなに茶髪じゃなかったのに。夜とはいえ気付かなかったのはそのせいか。
杉山選手を最後に今日のところは明日に備えて休むことにした。
まだ午後十一時。
お母様方の姿もいつの間にか消えていた。
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見直しとかチェックとかしてないので、変な文章とか誤字脱字があるかも。
気にしないでください。